第5章 赤い腕章
翌日、瞑想を終えて自室に戻る頃にユリの笛の音が聞こえた。
同時に最近ではユリのマネをする子どものヒヒも数頭彼女と共に笛を吹くようになった。
本人の音色は昨日の事で気持ちに整理がついたのか、いつものものに戻ったようだった。
窓から外を見下ろせば、ちょうどそこにいてヒヒと戯れる姿を見かけた。
もう明後日には彼女はここを発つという。
ユリが早い段階で警戒していた海賊は、まだ無双状態で海軍や海賊、そして国防能力が低い国を次々に襲って勢力を拡大しつつある。
しかし、ディルバリーに実害は出ておらず、それどころか、襲われた国にボランティアを派遣しているという。
ボル・ディルバリーという男には今まで興味を持たなかったが、彼と彼の周りに集う幹部の人望に惹かれて入社志願が殺到しているらしい。
まだ、活躍する前からユリの今を見抜いた男だ。
まだ、あの会社は伸びるだろう。
身支度をしてリビングに出れば、朝食の匂いがする。
「おはようございます。
昨日は本当に有難うございました。また今日から頑張ります。
朝食の準備出来てますのでどうぞ。」
「あぁ。戴く。」
初日に食の嗜好を聞かれその翌日から、それに合うバランスも考えた俺好みの食事をキチンと出す。
俺がリビングに入る頃を見計らって完璧に出してくれる。
ユリはここに来る前に家政婦がやることは出来ると言っていたが、ここまで完璧な仕事が出来るとは思わなかった。
しかも、朝食を並べた横には新聞も読みやすいように置いてある。
ここまで完璧にやるのは苦痛ではないかと気にしたこともあるが、本人曰くパズルのピースを合わせる感覚だから楽しいという。
それだけじゃない。
自分で手懐けたヒヒも俺に慣らして畑の手入れを手伝わせると言われ、この短期間で、畑の水やりと草刈り取りまで覚えさせた。
何にも差し替えるものがないといったが、生活が変わってしまうほどのモノを沢山彼女に与えられた。
彼女としては俺を師として仰ぎ
その師に教えて住まわせて貰ってる分を返しているだけの感覚だ。