第5章 赤い腕章
屋敷の外に出るともうすぐ日が沈む頃。
わたしに気づいたミホーク様はいつものポーカーフェイスで少しわたしを見ただけ。
咲は僕を使ってと言わんばかりに巨大化し、ミホーク様は「こっちの方が早い」と、またわたしのお腹に手を回してきて咲に乗せた。
いや、この子わたしの相棒なんですが………
と思ったのは内緒。
咲はふわりと舞い上がり夕焼けの大パノラマを悠々と飛ぶ。
この1ヶ月で咲とミホーク様が仲良くなってるのは少し複雑な気もした。
でも、咲がこちらに来るときに言ってくれたように、修行が終わって屋敷に召喚してからはずっとわたしについててくれた。
そうでなくてももともと、食事と畑仕事と修業の時にしか顔を合わせなかったのも、ミホーク様の配慮でもあったはず。
でも、ここ最近は少し会話も減り、少し難しそうな顔をされることが増えた。
考えを探ろうにも、完璧な鎧を纏ったような瞳から気持ちは読み取れず、過去の経験からしか推測がたたない。
ただ修行の時は、いつも通りで厳しくもその下にわたしと真剣に向き合うための優しさを感じていた。
「ミホーク様。どちらへ?」
「裏手の海岸だ。」
それ以降はなにも話さず、屋敷がある方と反対側の海岸へ向かった。
陽がどんどん傾くスピードをあげる度、空は真っ赤な炎を纏ったように染まる。
クライガナ島特有の深い緑は影を濃くして絵画のよう。
少しだけ強い風が正面から吹き抜けていく。
その風にのった潮の匂いが優しすぎてささくれた心の波を凪に変えるようだった。
あぁ、これを見せようとしてくださったんだ。
確かに生きてきた中で指折りの絶景。
思わず声を出すのを忘れて見入ってしまった。
「ユリ。何も難しく考えることはない。
己を受容し、己を信じ、己に貢献することそれはそのまま他人にも同じ様子を写す。
海が空を写す事と同じように…。
体得するまでに時間は掛かって当然だ。
ゆっくりで良い。ただ、己が剣の道に嘘はつくな。
人が生きる道もまた同じだ。」