第5章 赤い腕章
3週間後。
ユリの剣術修行は連日日の出から日没まで、晴雨問わず続いた。
ユリはその修行の際、毎回本気で全力でミホークの剣に挑み続けた。
勿論彼女の冷体温症で倒れないギリギリのところも考えて。
その上に自分でやると決めた夕食以外の全ての家事も完璧にこなしてもいる。
勿論彼女自身は楽しそうに、充実感を味わいながらやっている。
しかし、連日連夜、ディルバリーのことが気がかりで、ボルやエデルとマメに連絡を取りながらの毎日。
コーサノストラ海賊団は護衛が手薄な商船や、海軍、海賊、世界政府に上納金が払えない貧しい国や島を襲いながらどんどん勢力を拡大していった。
エデルもボルも大丈夫だと言ってるのだが、コーサノストラ海賊団の勢力拡大が進む度に徐々に気にせずにはいられなくなってきていた。
それでも、ミホークの前では気丈に振る舞い、剣を交えるときも集中力も切らさなかった。
「みんなが頑張ってるから、わたしも頑張らなきゃ。」
全てはそう思ってのことだった。
むしろ、現地にいけないことを修行へのエネルギーに変えていたといっても良いほど。
当然、ミホークも気づいてはいたが様子を見ている状況。
ユリ自身が覚えが良く、戦闘能力も確実に向上し迷いのない大胆な太刀筋で、キレも良くなった。
そういうところもあって、まだ育てたいという欲望も勿論ある。
しかし一番に、本人が望む限りと意思を尊重してやりたいと思っていた。
だが、今日は昼を過ぎた頃からどうも様子がおかしい。
「ユリ。今日はこれまでだ。
後はゆっくり休め。」
すると、ユリは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「今までお前は一日たりとも休まなかった。落ち込むところではないぞ。
あと数日ここにとどまるのなら、今日は休め。それも修行のうちだ。自分を大事にしろとも言ったはずだ。」
「はい。有難うございます。」
そう言われても、晴れない気持ちを抱えたまま部屋に戻った。