第5章 赤い腕章
送りの船に乗ろうと港に向かうと肩を人間の手ではないなにかに捕まれ驚いた。
振り向くと隼が俺の服を掴んだまま、引き留めるように来た道の方へ引き込もうとしている。
振り払おうとした瞬間、あの女が連れている隼だと気付く。
「式神の連れか?俺に何のようだ」
必死に目でなにか訴えようとしている。助けでも呼びに来たのではあるまい。
ただ、なんとなくこやつから感じたのは、主人のために自ら俺を引き留めてるのではないかという仮説。
すると暫くして呼び笛の甲高い音が聞こえた。
その音を聴いたのか、隼はピタリと止まり音が聞こえた方を見上げた。
しかし、先ほどの仮説を確定させるように、俺の腕にしっかりしがみつき大人しくなる。
「お前は、俺をお前の主人に会わせようとしてるのか?」
すると、ググと低い声で唸り返事を返したようだった。
「鷹の目。船はもう出払うぞ。何をしている。」
海兵に声をかけられて船の出港を知らされるも
「行け。こいつの主と話がある。」
それ以上海兵はなにも返してこなかった。
海軍の送りの船が出払った後、あの女の気配が近づいてくるのを感じた。
「え……....、これって…」
驚くのも無理もなかろう。
俺の方こそ驚いたというのに。
ただ、先ほどと違って孤高な戦士の姿ではなく、驚きと戸惑いが入り交じった表情だった。
話をすると話の節々に俺に向けられた尊敬の念が伝わる。
俺が1年前の戦闘するお前の姿を見て会いたいと思ったという趣旨の話をすると
頬を僅かに赤らめて目を輝かせた。
「わたしも剣士として、ミホーク様に一度は教えを請いたいと憧れを抱いて参りました。
まさか、一番召集に応じないと噂のあなた様にここで会えて光栄に思っております。」
一度途絶えた海の女神との交戦。
人は違えど同じような力を持つがまだまだ伸び代がある目の前の若い女。
組織に身を置く人間なら僅かな時間しかないであろうがその願いを叶えてやりたいと思った。
というよりも、俺のこの女を育てたいという気持ちの方が大きかった。