第5章 赤い腕章
シッケアール王国の奥地。
見渡す限りの草原は、朝露がついている。
湿った風が草木を揺らし、風と草木が揺れる音だけが聞こえる。
距離をとって向かい合う両者が剣を交えれば、たちまち壮絶な破壊を伴う。
ピンと張った緊張感が漂う。
「さぁ。全力でかかれ。オマエの全てを見せよ!」
「はい。」
バキバキバキバキ
戦闘モードに切り替えるための覇気を放ち一気に駆け出した。
雪妖流桜(セツヨウリュウオウ)との記述があったユリ特有の覇気はここ一年の鍛練と、戦闘経験により持久力もパワーも飛躍していた。
見開かれた目は、人を凍りつかせるような鋭くニヒルなもの。
しかし昨年と違うのはそれがユリの意思でしっかりコントロールされた表情。
タンと飛び上がり、突くように胸で双剣を構え斬りかかる
ガギュィィィィィィィイイイイイン
ドォォォォオオオン
双剣と単刀を挟んで目が合うと口角が上がっている両者。
「ほぉう。一撃でこれ程とは…女にしておくのが惜しいな。」
「わたしの中に妖怪が宿っていればこそでございます。
わたしが女であるがゆえにこの妖怪は宿りました。」
ギシギシと軋み合う双方の刀をはね除け再び斬りかかる。
「わたしは、もって生まれたもの全てに誇りと愛をもっております。」
激しい刀のぶつかり合いに、火花も音もけたたましくなる。
「故に!女で生まれて本望!男でなくて悔いたことなどただの一度もございません!」
そういって一度距離をとり大地を蹴りあげ思い切り振り下ろした氷傀は氷を伴った斬撃を放ち大地を走る。
「フッ。よく言った。」
ギィィィィイイインとけたたましい音をたててユリの斬撃を受け流し、斬撃の余波は渦を巻いて天へ昇華した。