第5章 赤い腕章
棺舟の帆柱の上を選んで咲が停まり
ミホーク様の前に飛び降りて膝をついた。
「終わりました。」
そういって師を仰ぐと、期待に通りと言わんばかりの笑みを浮かべ、
「あぁ。さすがは二人の海の皇帝に認められた女。
見事だった。」
「では、手当てをしてもよろしいでしょうか?
ヒヒに何の罪もございませんので。
彼らの中ではわたしは主人であるミホーク様の土地を荒らしに来た侵入者。
彼らがわたしに警戒して当然にございましょう。」
「フハハハハ!実に面白い!妙なことを言う女だ。
己で傷つけた相手を手当てするとはな。」
そういいながらも、バカにしたような笑いではなく本当に心から笑っているのが解った。
「ユリが気の済むようにしろ。終わったら食事だ。オマエが来る頃には用意をすませておく。
そろそろ日も落ちる頃だ。辺りが見えなくなる前に屋敷に来い。」
「え?あ、わたしが…」
「腹が減った。」
「あ…、はい。ではお願い致します。」
早速何してるのだわたしは…
師に食事の支度をさせておいて、自分はミホーク様にしてみれば別に治してやる必要のないただのヒヒの手当て。
でも、やってこいと言われた手前、ヒヒの手当てを放棄するわけにもいかなかった。
でも、
どんな料理が出てくるんだろう
そう考えてしまう好奇心は押さえきれず、
足早に行ってしまったミホーク様の背を見送ると、早々にヒヒの手当てを開始した。
ざっと見積もって怪我を追わせたヒヒの数は尋常じゃない。
ミホーク様の姿が見えなくなったところで、
力が強大化した治癒の光でヒヒ達を癒すことを試みた。
結果、50頭ずつを光の中に取り込み、傷の深いヒヒ以外はいつも携帯している医療道具で手当てした。
3頭の重症なヒヒの手当てが終わると、どこからか布切れをかき集めたヒヒがやってきて、手伝わせてくれと集まってきた。
それからは早いもので一気に6000頭のヒヒを1時間で手当てすることができたのだった。