第5章 赤い腕章
海軍本部を立ち去るために建物から出て鳥笛を吹く。
ピーけたたましい音が建物に反響して山びこのように木霊した。
来ない。
いつもならすぐ来てくれるし、わたしの気配を察知して近くにいてくれる。
軍艦で寝ててそのまま出港したのだろうか?
いやいや、そんなヘマ、あの子はしない。
咲くを呼ぶために場所を変え、グラウンドに行ったり船着き場に向かったのに一向に来ない。
いろいろ探し回ったり、通りすがりの海兵に聞いても咲の姿をみたものは誰もいなかった。
40分ほど探して、ふと、通りすぎたオレンジ色のミディアムショートの女性の海兵に聞いてみると
「今までどこを探したんだ?
探すのを手伝いたいところだがそこまで時間がない。申し訳ない。」
と丁寧に対応してくれた。
「練習場、競技館、武道館、グラウンド、船着き場は行きましたが…」
「西の船着き場は行ったのか?ここより人出が少ないが。」
「いえ、行ってないです。ではそっちに行ってみます。」
「あぁ。ここをまっすぐ行ったところだ。
見つかるといいな。
すまない。探してやれなくて…。」
「いえ、有難うございます。」
「では、わたしはこれで。」
男の人らしい勇ましい話口調に似合わない笑顔を向けて女性海兵は去っていった。
「イスカ少佐!お待ちください!」
彼女の部下であろう海兵が書類を紙旗のようにバタバタ言わせて追いかけ、わたしの横を過ぎ去っていった。
彼女があの『釘打ち』…。
釘を打つように正確に獲物を穴だらけにすると言う意味でそう呼ばれる彼女。
部下を大事にする戦法をとっていると知ってから、少し興味を抱いていたのが先程の女性海兵だったようだ。
「凛々しい子…。」
でも、その瞳の中には他の海兵と違って、平和的な、倫理的な正義を好んで背中の『正義』の文字を背負ってるように感じた。