第5章 赤い腕章
海軍本部はまさに敵地。
だけど、世に名が轟いた彼女を一目でも見ようといろんなところからの視線が送られる。
至るところに設置されている監視カメラのでんでん虫の視線もずっとユリを追いかける。
護衛や案内役もいないなか、八方気が抜けない。
「疲れるわ…こんなとこ。」
とぼやきを呟きながら階段を降りていく。
2階のフロアは廊下がだだっ広く、日も差さない薄暗がりで、自分が歩くヒールの音が異様にカツカツと響いた。
大きな気配に気づくものの面倒なことになりたくないと素通りし事務課の表札がある部屋へたどり着き、部屋の前のでんでん虫の受話器を取った。
「登録護衛官の登録に参りました。リドル・ユリです。」
「はい。センゴクさんから聞いています。どうぞ」
若い女の人の声が中から聞こえると、そのまま部屋に入っていった。
入室すると、廊下の風景とはうって変わって30人くらいの人たちが明るい照明の下で慌ただしく働いていた。
すると、案内人の女性が奥の部屋へと誘導する。
「ここは海軍が担う取引や契約を所轄する専用の事務を担ってるんです。
一般事務はもっと日が射す正面玄関口に近いところにあるんですけどね。」
そう説明されて奥の隔離された個室に入った。
どうやら、案内してくれた彼女がここの責任者のようで長たらしい説明を受けた後に本題に入った。
それからは手続きは簡易なもので、署名2通と登録護衛艦認定証の赤地に金の海軍のマークを施したバッジを襟元につけるようにいわれた。
説明も手続きも全て終わって席をたとうとした時、女性に耳打ちされた。
「表に誰かいませんでしたか?」
「えぇ。なにもしなかったのでそのまま素通りできましたが……。」
「お気づきでしょうが、気を付けてくださいね。」
それだけいった後彼女は心配そうな顔をしてわたしを見た。
「わたしは弱くないから大丈夫。
この課は女性多いみたいだから、あなた達も色々気を付けてくださいね。」
そう言い残して事務課を後にした。