第5章 赤い腕章
ハンコックに続いて甲板に出ると、前方に海軍の英雄と名高い男の船。
当人の犬の被り物に模した船首に腕を組んで仁王立ちしている。
彼は、シャンクスが話していたフウシャ村で出会った少年の実の祖父であり、
そして彼の息子は世界的大犯罪者と称される"革命軍総長モンキー・D・ドラゴン"である。
普段は豪快で愉快、朗らかな性格のガープ。
しかし、海賊には容赦ないという彼の眼差しは、味方に向ける笑顔ではなく、こちらを睨み殺すような野犬の様だった。
こちらも警戒の眼差しで彼の船を出迎えた。
ガープの船は悠々と九蛇の船に近づいて横付けした。
「やはりのう。まさか、お前らとの面識もあったとは。」
おそらく、わたしがこの船に乗り込むところを見てこちらに近づいたのだろう。
ハンコックとガープは互いに警戒の眼差しを向けたまま、船内はピリピリとした空気が漂う。
「こちらからの伝達もなしに来るとは何の用じゃ。」
「任務を終えて通りかかっただけじゃい。
こんなところで海軍にも連絡をよこさず停泊してるのを不思議に思うたまで。
そこにお前が来るとはのぅ。
リドル・ユリ。」
「わたしは海軍本部までの道中、偶然見かけたので寄ったまででございます。
こちらへはついででしょうか?詮索でしょうか?」
冷静な面持ちでガープに視線を向けるユリには、ガープが無害であることは分かっていた。
「ついでじゃ。こっちに船を向かわせた時に本部には連絡した。
迎えはワシらでやるとな。」
「今回の召集には応じる。
妾の意思で、ここにいる妾が妹分リドル・ユリの処遇を見守る為にな。」
「ほぅ。妹分とは。
まぁいい。ワシの船にのって貰う。」
「海軍の英雄と名高いあなた様が直々にとは恐れ入ります。」
ユリの社交辞令にガープは一瞬視線を寄越した。
そのまま背を向けたガープの後ろに続いてわたしたちも軍艦の方へ歩み出た。
「行って参る。留守を頼んだぞ。」
「はい!蛇姫様!!」
ハンコックとユリはガープの部下に先導されて軍艦の内部へと入っていった。