第5章 赤い腕章
「そうか。海軍敷地内でそれをうかつに話すでないぞ。
革命軍は政府を狙う組織。マリージョアにスパイを送り込む任務もあることをこの前知った。
その情報がどう出たかは解らぬ。
仮に万が一ユキが捕まっていれば偽名を使うか口を割っていないことも有りうる。
其方は幸いその力とやらで顔つきが変わってしまったことで似ているとは思わぬはずじゃ。」
母上がくの一の元頭だったのか、その血を引いて聴、嗅覚が優れ、他人を演じるのが得意だったユキ。
ハンコックに言われてその可能性を考えていなかったので青ざめてしまった。
「調べる方法は?」
「ユキの本心も状況も解らない上に、ユキ以外に革命軍と関わりがないのなら迂闊に手を出さんことじゃ。」
「しかし......!」
軽いパニックで頭が回らなくなってしまったユリは自分が出した声に驚いて両手で口を塞いだ。
「声が大きいぞ。
ユキはユリやヨシタカをずっと慕とうて付いて回ってた位の兄妹思いの女だったであろう。
ユリやヨシタカに何かあれば苦しむのはユキの方かもしれぬ。
それに、万が一名が割れていない場合、ユキもどうなることか解らぬぞ。」
「........っく....。」
「いつかわかる。革命軍とて仲間は大事にするであろう。
助けに行って当然のはず。
あちらの策にも支障が出ては助かるものも助からんのかもしれぬ。」
「そうですね。」
普段は誰に対しても高飛車で人を寄せ付けない性分のハンコック。
しかし、天竜人の奴隷だったという過去を知り、怪我や栄養状態の手当てに医者を使わずとも己の知識と能力だけで3人を助けたユリに対してはそうではなかった。
それは当時まだ自分より年下な子供であり、彼女が忌み嫌う男ではなかったからかもしれない。
そんなハンコックだからこそ、自分のためにそれを言ってくれていることをユリは解っていた。
「案ずるでない。新聞に出ていないのが案外吉報かもしれぬでな。」
「はい。あちらから音沙汰あるまでは待とうと思います。」
ハンコックの言ってくれることを信じて待ってみようと焦る自分自身の心に言い聞かせた。