第4章 力を持つ者の使命と宿命
「困った人だ.......。」
エデルは静まり返った室内に違和感を感じるまでユリが眠ったことに気づかなかった。
気づいてそんな一言を漏らしたものの
表情は穏やかで労りを込めた愛情の眼差しをおくっていた。
「私よりもいろいろなものを背負って、こんなにも気丈で愛に溢れているとは....。」
エデルがユリを過度に信用しているのも"雪女"が与える"強き者を惹き付ける麻薬"なのかもしれない。
漆黒の髪から輪郭に沿って細く長い端麗な指でなぞる。
大切なものを扱うような優しい眼差しで暫く見つめた後、個室に入れないからと医務室に彼女を運ぶ。
身じろぎひとつしない安らかに眠る姿はまるで人形のようだが目と口はうっすら開いたまま。
「理性の弱い者だと危ない。もう少し危機感をもって欲しいものだ.....。」
静かにベッドにユリを下ろすと、少し乱れた黒髪を直し耳にかけると目尻にキスを落とす。
そして胸元にあるジョリーロジャーのトップを眺めて一つ一つ触れながら髪を撫でると猫のように身じろぎ満足そうに笑みを浮かべる。
「ここにいる間は私が其方を守ろう。」
本人が聞こえていないからこそ出た言葉。
それはユリという人間を恋慕う一人の女性としての言葉か、部下になる決意の現れか誰も知るよしもなかった。
エデルは立ち上がると
ユリにブランケットをかけてそのまま部屋を出た。
翌日、何も知らないユリは医務室に自分がいたことに驚いたのは言うまでもない。
そして、
「またやっちゃった.....。」
と頭を抱えて自分の部屋に帰っていったのだった。