第4章 力を持つ者の使命と宿命
「行ったか。」
「カタクリ.....。
はい。行きんした。もう、雪女もあの子で昇華するでしょう。
わっちより過酷な運命があの子には待っておりんす。
もうその時わっちは天に召されてるでしょう.....。」
カタクリは何も言い返さず白菊を見つめた。
しかしその瞳の奥には、呪いであるが故に自分の力でどうすることもできない悔しさを秘めている。
だからこそ、愛する妻が何も思い残すことのないように望みはできるだけ叶えようとしているのだ。
今回遠征ではあったものの、そこに商戦護衛敵といえど海賊団の娘と称された女に会いに行く事さえ迷いはなかった。
彼らの部下も白菊の余命を知り、様々な恩恵を受けた者ばかり。
白菊の立場が危うくなる密告をする者などいなかったのだ。
そして白菊は話を続ける。
「あの子は、それでもまわりの手助けで乗り越えていけるでしょう。
それだけの力をあの子は持っています。
カタクリ.......
もし、もう一度カタクリの前にあの子が現れたとき、お願いしたいことがありんす。
わっちの身勝手な我が儘聞いていただけますやろか?
わっちとて、故郷をあの男が牛耳るのを止めたい。
だからこそ、"あれ"をわっちの代わりにあの子に連れていって欲しいのでありんす。」
そして白菊も、今回の遠征と、自分と共にあった"ユリに渡そうとしているもの"を渡す以外、無理なお願いをしたことなど一度もない。
だからこそ叶えてやりたいのだ。
「白菊が言ってきたことは大方起きてきたことだ。
もし、会うことがあるのなら渡すくらいはしてやる。
もう、休め。
腕まで冷たくなってきた。」
「はい。」
カタクリは言葉なしに白菊を抱き上げ、そのまま部下の前を通りながら二人の部屋へとはこんでいった。
ユリが予測していた通り、白菊にはこの時すでに、ユリという最後の雪女の歩む人生が見えていた。
女としても、戦士としても、自身以上の幸も不幸も味わうことになりうると。
白菊はそれをユリに言わなかったのは、未来に失望することなく今を自分らしく歩んで欲しいとの願いからであった。