第4章 力を持つ者の使命と宿命
話が一段落したところで白菊は視線をおとした。
一方ユリの脳裏に浮かんだのは、初めて白菊を見たときに触れた手が冷たかったこと。
「白菊様......、あなた、もしや.......。」
「この手でありんすか?」
白菊はすっと手を出し、テーブルに置かれたユリの手を掴んだ。
その手は先程頬に触れた冷たい感触と同じで暖かい気候とは裏腹に冷えきっていたのだ。
その行動と思っていた結果が当てはまり、急に突き落とされたかのように愕然とした。
「えぇ。わっちはもう長くないかもわかりんせん。おそらくユリと次に会うときは来ないでしょう。
ただ、これも保温機に入れば暫くの間は熱を保てます。
それもいづれ出来なくなったなら保温機の中で生きて最期を迎えるのでしょう。」
死が近いことと向き合ってきたのか話を聞き終えるまで白菊の話しぶりには迷いが感じられなかった。
そして今もユリを見る目は一切揺らぎもせずただじっと見つめている。
先程のカタクリの話しにもなんだか死を迎えようとする妻の願いを叶えてやりたいと思っていたであろう節さえ感じてしまう。
自然にユリの目からは涙が溢れた。
「優しい子。わっちはもう何も怖くないほど波瀾万丈に生きてきたさ。
ユリにも会いんした。わっちの役目はこれで終わりさね。」
自分の寿命もおおよそそれくらいなのは話で理解はしても、もともと海の上で生きる覚悟を決めた"あの日"からはいつ死んでもおかしくないと思っていたからどうってことなかった。
しかし、いざ、その死期を迎える前に来ていてその予兆と向き合いながら静かに強く生きている白菊を前にして、涙なしではいられなかった。
それは同情ではなく共感。
白菊にもユリのその気持ちがよく伝わっていたのだ。
白菊が向ける視線はまるでユリの実の母親のようだった。