第1章 幼い士族が抱く使命ー序章ー
サッチからの差し入れのお菓子を持って、俺のとなりにある椅子で足をブラブラさせている様は年頃の子供っぽい。
だが、小さい体をした大人としか思えない場面もしょっちゅう見受けられた。
「お前の頭ん中いったいどうなってんだよぃ?どうして3歳のお前が毒のことを知っているんだよぃ。」
「ははうえのおなかにいるときに、ははうえがだいじにしていたきが、あたまのなかに ほんをくれたのです。」
胎内記憶かよぃ....。
それにしても信じられねぇが、子どもが、しかもまだ3歳の子どもが嘘の付き方なんざ知らないだろう。
「なんかあれか?木の精霊みたいなんが、"おまえに私の知恵をさずけようみたいなやつ。」
「んー。そのようなものです。」
不思議なこともあるもんだな。
「びすた?」
ユリの声でベッドを見ると、ビスタが目覚めたらしく、うっすらと目を開けていた。
「ん......お?ユリ、マルコ.....」
「目覚めたかよぃ。気分はどうだよぃ」
ビスタは顔だけこっちを向いて話し始めた。
小さい声だがハッキリと話す。
大丈夫なようだ。
「あぁ。まだダルいが気分はいい。記憶が曖昧だが.....おまえがやったのか?ユリ」
肩肘で体をゆっくり起こした。
「ふふふ。そうよ!めがさめてあんしんしました。」
にっこり笑う笑顔は子供というより主治医のような顔。
どこまでもとんでもねぇ奴だよぃ。
「今回は俺たちはノータッチだぜぃ。」
ビスタは一瞬驚いた顔をしたが、すぐ顔を綻ばせ小さな主治医の頭を大きな手で優しく包んだ。
「そうか。感謝するよ。ありがとうな。この歳で立派に医者だとは驚いた。」
「俺も驚いたよぃ。助手どころじゃねぇ、立派な医者だ。」
本心だ。医療技術はともかく、患者を重んじ、判断力も知識も患者への気配り。
そして能力ではあるが確実に治すという自信も結果も、本当に医者だ。
「まるこ、びすた!はずかしゅうございます!
わたし、じぶんのちからでしかなおせません!」
慌てて顔を隠しふるふると首を振る姿は本当に可愛い。ちゃんと子供らしく照れることも謙遜することもコイツは知っているようだ。