第4章 力を持つ者の使命と宿命
現将軍弥助は紅條一族と白蓮宗家一族を従えて"雪女親子"を封印するため総勢30名で鈴後へ向かった。
そして二人が暮らし命を散らした山周辺から結界を張り、妖怪化した二人の親子の捜索を開始した。
弥助は紅條家の頭主と白蓮宗家の頭主と3人雪女が現れるとされている山小屋で待機。
日が暮れる頃には全員が山小屋に集まり、朝太郎、ユキノ、サトの遺影と妖怪化した二人の体を収める棺桶を祭壇に並べた。
そして祭壇前かつて囲炉裏(いろり)だった場所に薪を炊いて火をおこし、その回りを囲む4人の陰陽師が妖怪を呼び寄せるお経のような呪文を唱え始めた。
そのときどこからともなく現れた全身雪のように真っ白い女と幼女。
すぐさま妖怪の力を弱める呪文を唱え始め二人の強い殺気を鎮める。
雪女は身動きがとれなくなり足掻いた。
呪文の声の中口を開いたのは弥助であった。
「ユキノとやら。話がしたい。お主は朝太郎の仇である母と某を殺めれば、この国を救うか?」
雪女はピクリと反応し弥助を見た。
「某が知らぬところで、兄上が母の手下に殺されたこと、悔やんでも悔やみきれぬ。
朝兄は幼少病弱だった某の良き話し相手になり、体が強くなるよう鍛練してくれた。」
雪女は血濡れた瞳は静かに揺れた。
その様子を確認した弥助は諭すように穏やかに語りかける。
「兄上の御遺体は某が御神体として社に奉った。ユキノ殿、サト殿の遺体正妻とその娘として一緒に埋葬したい。
しかし、その体を返してもらわない限りはそれは叶わぬ。
この国を、朝太郎の家元であり国柱である光月の家を
どうか許してはくれないか。」
呪文が繰り返される中、妖怪化した体の前にぼんやりと生前の姿のユキノがサトを抱いた状態で現れた。
陰陽師達は主君の話の邪魔をせぬよう声量をおとして呪文を唱え続けた。
『霊魂の姿であなた自身の心が清いことは存じておりました。わたしの感情から生まれたこの妖怪の魂は結界を張った壺ではもう収まりません。
この汚らわしい魂はわたしに扱えぬほど強うなってしまいました。
後ろに控えるものたちの働きがなければこうしてわたしの真の魂だけで弥助様の御前に現れることなど叶わなかったでしょう。』
静かでありながらも凛とした声が部屋の空気を包み込むように優しく木霊(コダマ)した。