第4章 力を持つ者の使命と宿命
ユキノは声が枯れても泣き続けた。
後ろにおぶわれている娘の存在を忘れるほどに。
ふと気付けはもう日は落ちそうな明るさで、また風が少し強くなったようだった。
「連れて帰らなきゃ。
こんな寒いところに一人ぼっちじゃ可哀想だもの。」
ユキノは意を決して、立ち上がり、持っていた板と木に巻き付いていた枯れた蔓を巻いて朝次郎の亡骸を固定し、家へと向かった。
しかし、亡くなった大の男の体は重く、特に上り坂では休み休みでしか前へ進めない。
そのうち、サトが泣き出し立ち往生している間に、吹雪が酷くなり回りが見えなくなった。
「誰よ......誰を......恨めば良いの?
もう、前へ進めないじゃない.........。
苦しい......寂しい........
恨めしい.......悔しい........」
サトが冷えないように前に抱きかかえたが豪雪を凌げるようなものは何もなく、そこに横穴を掘れば良いのだけどもう悴んで血だらけの手は動かず、ついにはしゃがみこんでしまった。
「サト。母も父もあなたを守ってあげられずにごめんなさい。
もう母はここまでのようです。」
そう語りかけるもサトからの返答もなくピクリとも動かなかった。
もう流せる涙がないのにも関わらず、寒さといろんな負の感情が入り交じった絶望に打ちのめされ、
ユキノも雪に命を散らした。
それからというものの、薬草狩りや猪狩りなどに鈴後の山を訪れると帰ってこず、また探しに行った者も帰らないという怪奇現象がおきた。
不思議なことに被害者は男か侍か忍である。
そして下りてこられた女は口々に雪女とその子供がいたというのだ。
やがて、花の都でも家臣の謀反の兆し、流行り病、山火事、大嵐、凶作、飢饉、大寒と災難が次々と降りかかった。
やがてワノ国中にまで影響が広がり
そして弥助の母の突然死まで起きたのだ。
その時弥助ははじめて、朝太郎を殺した主犯が自分の母だということを理解して愕然とした。
同時に、家臣によって朝太郎が駆け落ちした村の女と子供が憎しみと苦しさと寒さから妖怪へと変貌していたことがわかった。
そこで弥助の救済要請で立ち上がったのが朝太郎派であった陰陽師紅條家と、くの一の精鋭と言われた白蓮宗家だった。