第4章 力を持つ者の使命と宿命
その時
急に強い気配が感じられ緊張が走った。
「ユリ。」
「えぇ。」
気づいたのはエデルもほぼ同時。
エデルはネックウォーマーのようなものを引き上げ鼻まで被り、黒い二つの短刀を取り出した。
ガチャリと刀二つを握りしめたユリの表情も先ほどの朗らかな笑みとは真逆の獲物を刈る冷徹な目に変わる。
「私も行く。」
「わかりました。」
甲板に出ると遥か遠くにあの海賊団のものと一目でわかるようなメルヘンチックな船。
もう少し近づいてくるとやはり来たのは"彼ら"だ
マストに大きく書かれた“KATAKURI”の文字に白菊とマルコが脳裏に浮かぶ。
警戒体制はとるが、あちらとてビジネスで来ているとの情報もあり様子を伺っている。
いえど相手はビッグマム海賊団のNo.2で、ビッグマム自身が最高傑作と称える男。
油断も隙も一切見せてはいけない。
船は母船を含め11隻。
目の前を悠然と横切っていく母船から強い気がこちらに向いているのを感じる。
私も、船縁に立ち上がってその気に答えると、突然超高速で何かが飛んできた。
刀を抜き、その物体を覇気を込めて弾き返すとキーンと甲高い衝突音が響いた。
「飴?」
濃いピンク色をした楕円形の物体がコロコロと転がっていった。
「流石は親父様と赤髪の坊やが認めた女。見事でありんした。」
声に驚いて振り替えると、横兵庫に白甲の櫛(クシ)と笄(カンザシ)を挿したヘアスタイルに赤と黒の市松模様の着物を着崩し、金帯を前に結んだ姿で面を被った大きな女性。
「あなたは?!!」
「!!」
「二人から聞いたでありんしょう?わっちもあんたと同じ"雪女"さ。」
そういってエデルに背を向け私だけに仮面を外して見せると、私と同じ顔。
「ほ.....本当に、貴方が白菊様でございますか?」
そういうと妖しく笑ってこちらを覗き見る。
「他に誰だってんだい?
この島も、あんたの船にも危害は一切加えるつもりはない。
わっちはあんたと話がしたくて旦那に付いてきたのさ。」
ヒヤリとした指先で私の頬をなぞると、今度は優しい目をして笑った。
*横兵庫ー江戸時代中期以降の花魁のヘアスタイル