第4章 力を持つ者の使命と宿命
「"さん"はいらない。ミゼルにもだ。」
一旦止まった会話の空気を遮るかのように低い声が響いた。
「なぜ?」
「其方の部下になるんだ。さんはいらない。」
そう言われて思わず目を見開いた。
その言葉を聞くのはあと少し先だと思ってた。
「社長が其方を選んだのだ。それに該当するような女性であると感じている。」
まだ会って数日なのになぜそんなことを言ってもらえるのか解らない。
この人も私に何かを感じれるくらいの見聞色が備わっているのか、それともボルさん達への信頼の強さか両方かも解らない。
「そこまで思っていただけるのは嬉しいのですが、歳上で先輩ですから敬称は.....」
「それでもだ。そうしてくれた方がいろいろやりやすい」
「しかし.....」
そこまで言いかけると面倒臭そうにジト目で見られ従うことにした。
「エデル。わかりました。」
「あぁ。それでいい。」
とりあえず気に入って貰えたようで良かった。
「ペンダント。」
「へ?」
胸元のペンダントを手に取られ不意に赤い瞳と目があった。
鮮血のような瞳に一瞬囚われたように体が動かせなかった。
視線が外れたと思うとじっとペンダントのトップを見つめてふっと笑みを溢しその手を離す。
「そのペンダントのトップの量も質量もえげつないな。
それだけ海の皇帝とやらに認められ、なおあの社長にも認められてるんだ。
実際の戦う姿を拝みたいものだ。」
「エデルの戦い方も気になります。」
そう言い返して笑い合った後、ふとこの人の異変に気づいた。
過去の一片も見えなければ、心の状態も読み取れない。
目がバッチリ合ったのにも関わらず。
それどころか、まるで自分の意思を支配されたような感覚を感じたのは気のせいだろうかと思った。