第3章 覚醒をはじめた証
「ゔ~!!!ユリ~!!行っちまうのかよぉ~!!」
号泣サッチ兄さんは別れの時はいつもこんな感じ。
腕で涙をゴシゴシ拭いながらのこの光景はもはやわざとではないかというほど毎回である。
しかも、ほぼ全員の見送りの最前列でだ。
勿論他の兄弟は笑ったり呆れたり。
「うっせぇよい!シスコンフランスパン!
みっともねぇよい。」
怒鳴られたり......。
「ゔる゙ぜー!!ジズゴンはおめぇもだろうが!!」
もう泣きたいのやら怒りたいのやら......
「また近くに来たらすぐ帰ってくるから、また美味しいの作ってよ。」
「勿論だー!!絶対だぞー!!」
笑いたいのやら......。
ホントにこの人は私が船を出るとき程忙しい。
勿論、泣くほど別れを悲しんでもらえてることは嬉しいんだけど、どうしていいものか毎度の悩みでもある。
とりあえずこれからは世界中ひっきりなしで渡り歩くんだから1年も開けずに来るとは思うんだけど......。
「コイツの事は放っときゃいいよい。
ユリこれからはお前が先陣きって戦うんだ。怪我すんじゃねぇぞ。」
「ビスタとハルタに稽古付けて貰ったから大丈夫!!今度はマルコが稽古付けてね!」
「おうよい!ユリにはまだまだ負ける気がしねぇから覚悟しろよい!」
マルコは晴々した笑みを浮かべていた。
昨日までの一人でいるときのどこか憂いてるような表情はそこにはない。
「ユリさん!!出港の準備が整ったぞ!!」
声のする方を向けばモルトさんがボルさんと二人で私に手を振っていた。
その声でモビーは見送りの声で溢れた。
「元気でなー!!」
「風邪引くなよー!!」
「ディルバリーのやつら!!ユリを頼んだぞー!!」
見送りの声の大きさは、最初に父様が魚人島まで迎えに来てくれたときの出航の時を思い出す。
見送る声の人数と、言葉の数々に涙しながらも笑顔で手を振った。
「姫。行ってこい。」
イゾウに背中を押されて歩き出す。
そして、ディルバリー船に乗ろうとした時、一番奥の方で私の背中を見守る視線を感じて振り向いた。
「行ってこい。風邪引くなよ。泣き虫娘。」