第3章 覚醒をはじめた証
静かに笑って見送る父さんに深々と頭を下げた。
船縁に立って、高らかに指笛を鳴らすとどこから来たのか咲がユリの肩を目掛けて飛んできた。
そして、皆に届くように
「行ってきます!!」
と大きく手を振る。
「おぉー!!」
「行ってこーい!!」
見送る声が一層大きくなった。
割れるように響く声に胸が熱くなって更に大きく手を振る。
「出港!!」
ボルさんの掛け声でガコンと船が動き出す。
それはこれからの新しい旅と試練が始まる合図でもあった。
離れても離れても止まぬ見送りの声は船の姿が見えなくなっても余韻のように鼓膜に残った。
「見えなくなったな。ユリさんの家族は凄いぜ。」
モルトさんがまだ嗚咽を漏らす私の背中を擦ってそういった。
「白髭さんに娘をよろしくって言われたよ。いいお父さんだな。」
横に立ったボルさんがモビーが見えなくなった方角を見つめた。
「ありがとうございます。」
「さっき、正式にユリがうちの会社に入社したことを世界経済新聞社に通達したぞ。
これで世界にも君の名前がうちの社員として知れ渡る。忙しくなるぞ。」
「ご期待に添えるよう尽力します。それと父の事はどのように報告されたのでしょう?」
「勿論当たり障りのないように、ヨシタカ君が赤髪君のところに入ったときの記事をそっくりそのままさ。
レイさんの事はなにも書いていない。」
それを聞いて安堵した。
父はいくら強かろうと引退した身。出来るだけ静かに暮らしてほしい。
娘としてそう思うのは当然の事だ。
私はボルさんが部屋に戻るのを見届けて、自室に入った。
その後兄上に白髭海賊団と別れた旨を伝えたのだった。