第3章 覚醒をはじめた証
川原に降り立つと黄色い無数の光が飛び交い幻想的な空間を作っていた。
「火垂る.........」
時々目の前にも現れる光を追って、ユリは俺の背中から離れていった。
「綺麗。これを知ってて連れてきてくれたの?」
「いいや.......俺も知らなかったよい。」
「ふふっ。そうなんだ。でも有難う。嬉しい.....。」
そうやって無意識の着物の仕草で空に舞う火垂るを仰ぐから一つの絵画のようで思わず見とれてしまった。
同時に、俺が親父の船で見習いとしていた時、偶然ワノ国に上陸したあの頃、仲間に黙って近くの川で同じ光景を見たのを思い出した。
遊廓から足抜けした女郎の新造だと言った一つ下の女。
それが白菊との最初の出会い。
あの時も日没後で火垂るが辺りを照らしていた。
「もう記憶は殆ど霞んでしまったけど、まだあの国にいる頃、川の辺りで兄妹で見ていた気がするの。」
遠くなっちまったあの頃も、その言葉で上書きされたような気がした。
暗い方へ進んで「座れる場所を探そう」とそこそこデカイ岩がゴロゴロある川沿いを歩き始めたユリを慌てて横に抱き上げた。
恥ずかしいのか胸を押しやってくるユリに
「ここは足場が悪いんだ。下駄履いてて動きにくい格好してるんだから抱えられとけよい。」
と説得すると、申し訳なさと恥ずかしさで俯いて
「あ......、ごめんなさい。」
と、俺のシャツを掴んで大人しくなった。
宴の時、昔を思い出してコイツにそのままで待ってろと言ったが、今になって後悔している。
この歳になっても、好きな女にこんなことすると心拍数はかなり上がるらしい。
しかも、相手は親父と仲間くらい大事にしてきた白髭海賊団の妹であって、俺にとって一人だけの弟子。
そしてレイリーの養子で親父にとっても実子のように大事にしてきた娘。
ユリの気持ちを無視して泣かせることなんて出来やしない。
自分でやったことだがこりゃ.......
生殺しじゃねぇかぃ。