第3章 覚醒をはじめた証
「親父。イゾウ、何の嫌がらせだよい」
目の前の艶やかなユリの姿を見れたのは嬉しいのだが、片恋であろうと惚れた女の姿を見た目の前の兄弟達の反応が苛立ちを掻き立てる。
「アイツは白菊がここでどんな事をしてたかまでは知らねェはずだ。
ただ単に好奇心とあの着物を着せたかったんだろう。
あの着物の鶴と桜がイゾウなりの意味がある気がする。」
目の前で鼻の下を伸ばしている部下と真横で、鼻血を吹いて倒れているサッチ。
一方親父は懐かしそうに、または可愛い娘の成長を喜ぶ親のような眼差しで見つめていた。
「普段でも破壊力のある容姿な上にあの格好はねぇだろうよい。
今夜あたり野郎共のオカズになってそうで見てらんねぇよい。」
俯いた状態で後頭部をかきながら大きなため息をつく
「おめぇは違うのか?マルコ。」
さらりとごく普通のように返す白髭は、内心ではマルコの反応を楽しんでいるようだ。
「ぐふっ......ゴホッゴホッ!!何て事言うんだよい。」
飲みかけていた酒を吹き出しそうになって噎せたマルコをニヤリと笑みを浮かべながらその背中を撫でてやった。
「グララララ、図星じゃねぇか!顔が赤いぞ?」
「し...知らねぇよい。.......でも、嫌がる事はしねぇし、させもしねぇ。
それに、あいつが俺の事見てたとしても、俺じゃねぇ気がする。」
「歳なんざァ飾りでしかねぇことくらい解れよ?
俺ァ、ユリが笑っていられるんなら、どんなハナッタレでも構わねぇが、一番はお前だと良いとは思ってる。
まぁ、今はどの男にも見向きしなさそうではあるな。」
「そうだねぃ」
そういうと 、イゾウの肩に掴まりながら少し見下ろすように
艶っぽくも凛とした表情で優雅に練り歩くユリの花魁道中を上座で見守る白髭とマルコ。
マルコの中の白菊との思い出は、本人の意図としないところで同じ郷生まれのユリに上書きされていくようだった。