第3章 覚醒をはじめた証
空の茜がなくなってきた頃、甲板では16番隊が和服でイゾウの部屋から並んでいて甲板がざわついている。
その中には三味線、笛、琴、鼓を構えるものもいて、じっと身動きもしない。
他の隊の兄弟が何事か訪ねても、隊の機密だと答えるだけ。
ディルバリーの社員たちもユリがどこを探してもいないことに気づき、兄弟に混じって話をするものの気になってしょうがない様子。
マルコもサッチも他の隊長たちも何も聞かされてない。
白髭は悠々と座り、その光景を面白そうに眺めていた。
「親父、何か知ってるんじゃねぇか?」
アトモスが白髭に問いかけたものの
「グララララ。こりゃ、言っちまったらイゾウに怒られるなァ。
まぁ、野郎共、出血多量で死ぬんじゃねぇぞ?グラララララ。」
そう答えるだけだった。
暫くして、幕に隠された何かが部屋から出て、イゾウの声が高らかに夜空に轟いた。
「ユリ太夫のぉ、御練ェりィー!!」
シャンシャンと鳴る合図で和楽器が鳴り、お囃子歌が始まった。
次の瞬間に幕が取られると、凛とした立ち姿で花魁の衣装を纏ったユリが現れた。
一斉にざわめきだし、歓声をあげて喜ぶ者や、
鼻血を出して倒れる者も、あまりの美しさで目が眩む者も後を絶たない。
ユリはイゾウの肩に手を置いて、後ろから和傘を掲げられ、
外八文字で妖艶に粋に一歩一歩練り歩く。
背中には大きな登り鶴に金の桜が舞う真っ赤な打ち掛けには、ユリの幸先の良い未来を願うイゾウの想いが込められていた。
「御練ェりー!御練ェりー!」
他の16番隊員は桜吹雪や金銀の紙吹雪を降らせながら声をあげる。
船はいつもの宴とは全く違う雰囲気で、イゾウが企画し、ユリと共に作り出したその世界観はワノ国の生活を彷彿させる。
花魁が衣装によって板についたユリの堂々たる花魁道中は、白髭海賊団の皆を一人のこらず魅了したのだ。
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※外八文字
江戸吉原の花魁道中で広まった外八文字は、外に足をおしとやかに歩く内八文字に比べて、より動きも大きく、色気があり、花魁の持つ華やかさを表現するのに適した歩き方であったと思われます