第3章 覚醒をはじめた証
続いて覚悟を決めてイゾウの部屋に向かうとドアの前で腕組みして待っていた。
「どうしたのその格好。」
珍しく、男の着物を装い、トレードマークの日本髪も今日は男の髷。
「待ってたよ。いよいよお楽しみの時間だねぇ。」
「嫌な気しかしませんが、どういうことでしょう....。」
まぁまぁと言われながら部屋に通される。
そして、たとう紙の上に綺麗に並べられた派手で艶やかな打ち掛けと襦袢、振袖、帯。
化粧台には鼈甲(ベッコウ)の櫛、簪、他にも豪華な簪の数々。
一気にやりたいことが解り、溜め息が出た。
「イゾウ、ここがどんなところか解って、私をこんな格好させたいのかしら。」
「むさ苦しい男所帯には高嶺の花だろ?ユリの容姿には合ってると思うが?
別に誰に抱かせようって訳じゃないさ。
ただのお遊びさね。」
「他に何人巻き込んでるの?」
「俺の隊と親父しか知らないよ。親父はさぞかし楽しそうにしてたけどな。」
父さんが楽しみにしているって、兄弟の反応の事だろうか.....
それとも純粋に酒のつまみか
それとも、白菊様がそんな格好をされてたから、同じ顔だという私がその姿になることで懐かしみたいのだろうか。
もし後者だったら父さんのためにやってあげたいと思う。
「父さんが楽しみにしているってどういう意味かはわからないけど、そう言われたら拒否できないじゃない。」
「そうこないとな。」
楽しそうに笑うイゾウに化粧台で白粉や紅などで施され、髪を結わえた後、ほらよっとたとう紙に置かれた襦袢と振り袖を私に持たせて仕切りの奥へと押しやられた。
自分でできる範囲の着付けが終わった後、鏡を見ながらイゾウに仕上げられる自分を見ていた。
「やっぱり見立てどおりさね。よく似合ってる。」
「初めてこんなに塗って着飾ったけど、全然私じゃないみたい。」
最後に打ち掛けをかけられると、打ち石をされおこぼを用意された。
「え?ここまで?」
「あたりめぇだ。ラクヨウに傘も頼んである。今日はユリの花魁道中さ。」
自分で乗った話である手前、
ため息はついたもののイタズラそうに笑うイゾウに対してもう何も言わないことにした。