第3章 覚醒をはじめた証
最後の夜はまた白髭海賊団とディルバリーとの合同の宴が開催されるということで、朝食後からお昼までに大方荷物は纏めておいた。
夕方になって、マルコに"治癒の涙"のストックを渡しに行くと部屋で大量の書類と格闘していた。
「わぁ.....大変だね。」
「いつもの事だよい。それに明日は船出で、ほぼデスクワークできねぇだろうから、今のうちに済ませてんだよい。それどうした?」
「"治癒の涙"よかったら使って欲しいなぁと思ってストックできるようにしてお裾分け持ってきたの。」
「え........、ストック出来るようになったのかよい。」
少し引き気味なのはおそらく、涙をストックしているという奇妙な発想で液体窒素保存容器に100mlを10パック入れて持ってきた物を見せたからだろう。
「うん。自分なりに研究してね。この船でも極秘の品物だからいざという時にマルコだけが使って?10回開けても5年は使えるから。」
この船に乗せられてから隊長と医務班の信頼できる医師しかしらない極秘情報とされていた私の持つ"治癒の目"の力。
今でも同じ扱いとして守られてきている。
だからというもの、5年前までもこの涙のお陰で何度か毒や怪我を癒してきた経歴があるからこそのストック。
「わかった。有り難く貰っとくよい。」
「うん。じゃぁ、またあとで。」
この後イゾウに初日に渡すと言われていた"最後の一着"を着せられに行く。
仕事も忙しそうだったので早く出ようとも思って部屋を出ようとしたとき、ユリと呼び止められた。
「宴、どうせ明日早いだろうからそんなに長くは参加しねぇだろぃ?」
「うん。」
「じゃぁ、最後に"散歩"付き合ってくれねぇかぃ?
ユリが大人になったし、相棒も出来たようだから今回で終わりかも知れねぇしな。」
少しだけ寂しそうな声色で話す。
懐かしい。
"散歩"と彼が言うのは、ほんの5年前まで会う度にその日の夜に不死鳥の姿のマルコが私を乗せて飛んでくれたことを指す。
いろんな意味を込めて"最後"って言っているのもマルコなりの優しさかもしれない。
少しだけ目の奥を見ると言葉以外の他意はないのを感じた。
「楽しみにしてるね。」
そう言い残して部屋を去っていった。