第3章 覚醒をはじめた証
ユリが幼少期の頃でも、力を使わず追いかけていたマルコが驚いたと表する俊敏さは、大人になるとまさに瞬間移動レベル。
その早さでハルタに詰め寄り斬りかかる。
「やっぱり速さは凄いね。でも、俊敏さと力は一緒に出せないんだね。」
そう言われて弾き返される。
途端に後ろからビスタの一撃を柔軟な体を駆使して避けた。
「自分のスピードが速い分、先も見えてるのか。避け方まで美しいとは。」
靴底に針が刺さっているかのような傾斜まで曲がった状態をぐるんと回しきり攻撃にかかる。
「体幹が凄いね。"雪女"って昔話に出てくる美しい妖怪って聞いたけどまさにそのままじゃん!」
ガキン!ギシギシギシ
打ち付けて擦れ合う金属音。
「誉めちぎっても、何も返すものはないわ。」
「それは残念。」
金属音が激しくなるにつれて、斬撃や花弁、氷粉が舞う。
戦闘の激しさを物語るようにそれは入り乱れた。
時間が経つと共に激しさを増す戦闘。
同時にそれぞれの本気度も増し、ビスタは花剣の技を繰り出し、ハルタの斬撃は高速で大きくなる。
ユリは僅かに表情がニヒルに変わり、風を切って走る後に冷気を伴うようになっていった。
それぞれの一撃が強くなるにつれて二つの刀が放つ武装色の覇気のオーラが濃くなる。
さらに戦闘がヒートアップしてきた時、ユリは人間とは思えない冷酷な笑みを浮かべた。
その表情は人の心を凍らせる程で普段見せない表情にハルタは思わず息を飲んだ。
妖刀の威力は増し氷柱が斬撃と共に出現。
驚いたハルタがよろめいたところに斬撃のと氷柱が到達し腕を掠めた。
「チッ!!なんか風みたいだ。」
一方ユリは、先日の海賊を撃ち取ったときの力よりも僅かながら力が出せる事に驚いていた。
日々覚醒していくなかで、いつかコントロールが効かなくなるときがあるんじゃないかと思う。
ここに来るまでの戦闘で最大出力で力と集中力を使い一瞬で船を沈めるようにしてた。
その力と集中力を長時間持続させて戦う事で、意識をしっかり保たなければ、私の身心は"雪女"の魂そのものか、"雪女"の能力に飲まれてしまいそうな感覚を感じた。