第3章 覚醒をはじめた証
いろいろ自分の仕事を片付けて部屋に戻ろうとすると、なぜか俺の部屋から光が漏れていた。
ここ数時間は部屋に行ってないのにと音をたてないようにドアを開けた。
ランタンの光が揺れる横で本を広げたまま寝息をたててるユリがいた。
しかも目が半分開いて口も少し開いている。
起きてんじゃねぇかっても思うこの姿は昔からの癖。
「おいおい、こんなところで寝てたんじゃぁ、体痛くなるよい。」
揺すってみたが起きる気配がねぇ。
机をよく見れば昼前に俺が読んでみろって勧めた本。
結構分厚い本だが、医学書をよく読む医師にとってはそんなに苦痛でもない情報量。
相当疲れてたんだろうな。昨日も話には聞いていたが久々に海に出てから毎日沢山の人と出会い、仕事にも就き覚えることもやることも、いっぱいだったらしい。
気ぃ使う場面も多かっただろうよい。
まぁ、そうでなくてもユリは子供の頃から俺の部屋に勝手に入って医学書を読みながら寝ていて毎回毎回部屋に運んでいってやった。
その癖は健在のようだ。
困ったなぁ、こりゃ。
運んでやるか。
横抱きに抱えてみたもののビックリするほど軽かった。
女ってこんな軽かったか?こいつが軽すぎるのか?
ユリを抱えて部屋に連れていったのは5年と少し前以来だ。
その頃と違って色っぽくなっちまったことに寂しさも感じる。
顔はやっぱり白菊だ。
何度かこの顔を見てアイツがここにいたことを思い出したのに、この緩い感じの寝顔の癖はユリそのものだ。
白菊とは正反対の生真面目なしっかり者のくせして時々うっかりしてるところもある。そうだな。やっぱりユリはユリだよい。
そう思うとホッとした。
「......ん」
身動ぎしたかと思えば俺の胸に顔をつけるように体を預けてきた。
しかもうっすら開いてる目がこっちを向いてるようで、それに合わさって口の開き加減がなんか誘ってるような女の顔。
って、なにやってんだ俺は。
気づけばこいつ抱えてから全く動いてねぇよい。
頭に過ったふしだらな気持ちを振り払うように頭をふって部屋を出た。