第3章 覚醒をはじめた証
そして、モビーに戻ってきたのは、夜の8時を過ぎた頃。
昼食の時にサッチ兄さんから聞いたマルコの伝言どおり無断で部屋に入る。
幼い頃に弟子入りして以来、何の許可や相談もなしで勝手に入る事を許されているのは、私と数人の隊長のみ。
気に入られてるのか信用されているのか、またはどっちもなのかは知らないが、名誉なことだと思っている。
サッチ兄さんが言ってた通り、部屋にはマルコはまだ帰ってきておらず真っ暗だった。
それでも、何回も入ったことがあるからこそ、本の匂いや薬品の匂いが懐かしく、少し散らかったデスクも忙しいマルコならではの光景。
何にも変わってないのが嬉しかった。
ランタンに光を灯すとアロマ入りのキャンドルだったらしく、集中力を高めると言われているローズマリーの香りがした。
よく考えればこれ、私が研修に行く前にプレゼントしたものと似ている。
気に入ってまた買ったか、もしくは私が来ると決まってからこれを置いたか。
どちらにしても嬉しかった。
お目当ての本を探し出す。
そういえば本のタイトルを聞いてない。
とりあえず病名で医学書がいっぱい詰まった本棚を隅々まで探した。
見つからない。
文献のタイトルかと思って載ってそうな本を引っ張り出してはパラパラと捲ったりした。
そうやって探し出すこと数十分。
ようやく見つけたところは、見落としていた本棚の隅っこ。
タイトルは病名の[潜在性急性冷体温症]と書いてあった。
ふうっとため息ひとつついて椅子に座って本をパラパラと捲る。
1章 病名由来、症例
2章 研究歴
3章 病原 予防の心得
4章 治療法 対処療法
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計8章だか、普通の医学書並みに分厚い。
時計を見ればもう9時半過ぎ。
続きが気になって部屋に戻ることを忘れて没頭して読んだ。
時間すら忘れて。