第3章 覚醒をはじめた証
「ねぇ、今日は私も厨房に入ってもいい?」
みんなと久しぶりだということもあって、ここに来るときに楽しみにしていたことの一つがそれだった。
父様の所へ行ってからも1~2年に一度は白髭海賊団の船に遊びに来ていた。
その時も、サッチ兄さんに料理を教えてもらったり手伝いをしていた。
そう。私の料理の原点は味は母上と使用人が作った和食ではあるものの、母様とサッチ兄さんに手解きを受けたところにある。
「ユリは今回は祝ってもらう方で来てんだ。気持ちは嬉しいけどな。」
「んー、一緒にご飯作る事、こっち来るときに楽しみにしてたことの一つだったんだけど....。」
そういうと表情がぱっと晴れて、ガタンと椅子の音を立てて立ち上がった。
「お!マジか!
ユリちゃんの作る飯は格別で元気も出るしなぁ!
みんなもきっと喜ぶよ!」
大きな手で握手されそれに応えると、もう厨房にはいる時間だと気づいた。
ほいよ!と渡されたのはコック服。
それを身に付けると、サッチ兄さんの後を追って厨房に入っていった。
「お!ユリさんじゃないっすか!」
「隊長!もしかして今日はユリさんと一緒に朝飯作れるんっすか?」
後から後から入ってくる隊員たちを背に、既に調理を始めている二人。
隊員たちは皆、ユリも厨房で共に朝食を作ることに喜び、いいところを見せようと袖をたくしあげる。
「全く、男って奴は単純なもんだぜ。」
普段色気たっぷりの美女に鼻の下を伸ばすサッチですらそうぼやいてしまうほど、厨房の雰囲気はかなりいい意味でいつもと違っていた。
皆は背筋を伸ばし目から火が出るくらい集中して、そこそこの高級料理店を思わせるような仕事ぶりだった。