第3章 覚醒をはじめた証
宴が始まると、イゾウと共に輪の中心に入る。
三味線を構えたイゾウの横で、扇子を広げて構えると、賑やかだった船内が一気にシーンと静まり返り緊張感が漂う。
ベンっと弦を弾く音と共に舞い始める
演目は"桜舞(サクラマイ)"
イゾウの歌声と三味と共に舞えば、高揚感と懐かしさが体を支配し、体が勝手に動き出す。
袖は動きを大きく見せ、布地の光沢が船から照らされる光で時折キラリと輝くのが踊ってても美しい。
チラリと回りに目をやれば、みんなは喜んでいるよう。
父さんも見入っててくれてて気持ちがいい。
それでもやはり"白菊"という単語が聞こえ驚きの表情を見せる兄弟もいる。
中でもマルコは今までにないほど物悲しく目尻が下がってるように見えた。
マルコにとって大事な人だったのかしら?
今も生きてるのかしら?
様々な疑問が頭から出てきたけど、全てをみんなの思いを吸収して踊るようにしてみれば、曲にみるみる同調していく。
吹雪く桜の散り様に
勇む武士(モノノフ)の立ち姿
明日散る命であろうと
この生に悔いは残さじと
潔き覚悟に花開く
恋も戦も生(セイ)の輝き
人の命は儚い夢
ただ懸命に花開けば
雨も風も友になりて
一時の輝き増して
散り終えるまで美しい
最後に扇子に仕込んだ紙吹雪を散らすと曲が終わり、拍手喝采となった。
「ユリ!また芸を磨いたな!」
「色っぽいぜ!俺の嫁になるか?」
「お前にユリは不釣り合いだぜ!」
と、酒の入った兄弟が騒ぐ姿はどこの船でも同じ光景。
帰る家がいっぱいあるって幸せだと感じていた。
「姫、今度は姫の笛で踊らせておくれよ。」
男の女形が板についているイゾウらしく妖艶に笑って見せた。
「えぇ 喜んで。お師匠様。」
わざとらしくそう答え、懐から笛を取り出し吹き始めると、空気がガラッと代わり、場が締まる感じがした。
「何かわかぁんねぇけどスゲーよな。あの二人。」
「戦闘能力高すぎる上に、芸事もレベルが高すぎるぜ。何か欠点ないのかあの二人。」
そう呟く声もちらほらあるなか、二人は別世界にいるように舞曲に酔いながら躍りそして笛をならした。