第3章 覚醒をはじめた証
「おい、姫。俺にもよく顔を見せておくれ。」
「イゾウ!」
俺からユリを引っ剥がして、片腕で肩を抱き、別の手で顎を持ち上げる。
「電話で主人の娘を名前で呼べないといっていたのは誰だったかしら?」
悪戯な笑みで、イゾウを畳み掛ける。
「そんなこと言ったかい?忘れっちまったねぇ。」
一枚上手のイゾウはニヤリと口角を上げ、ユリの腕を引く。
「そんなことより、姫に渡したいものがあるんだ。俺の部屋に来ておくれよ。そのペットも一緒にな。」
いつの間にか小さくなった鳥は大人しく主人の肩にとまっていて、まわりがワーギャー騒ぎ立てるのもお構いなしに、ユリはイゾウに手を引かれながら仲間達の中に消えていった。
イゾウの部屋に連れられると、タンスから3着の着物を取り出した。
「こっちの二つは桜様の大事にされていた着物で、深紅地の鶴が描かれているのは舞踊着、紺の桜柄は打ち掛けだよ。
姫が最後に桜様に会われた時着ていたものさ。」
「......これをどうして?」
記憶の片隅に消えそうだった母上の面影が甦る。
思わず涙が溢れそうになるのを堪えて、着物を手に取った。
「俺が頼んだのさ。海を出るとき姫に会ったら着せたいってね。幼い姫に渡すより、大きくなった姫に渡した方が喜ぶだろうと思って今日まで預かってたのさ。」
「懐かしい.....。」
「そうかい。なら、今日はこっちを着て貰おうじゃないか。」
そういって、指を指したのは舞踊着。
「今日は姫が主役の宴さ。俺が三味線弾くから、踊ってくれ。
姫でも踊れる曲あっただろ?」
幼い頃にイゾウに教えてもらった母が好きだった古典演目を思い浮かべた。