第1章 幼い士族が抱く使命ー序章ー
夜になれば母上を思いだし泣くかと思えば、そうなるまえに宴で楽しみすぎた二人は宴の途中で疲れて眠ってしまい安堵した。
「お兄ちゃんも大変ね。
ここはワノ国じゃないから、感情に素直になっていいのよ?」
話しかけてきたのは、看護師長のリーザ。
中年の物腰が柔らかそうな女だ。
感情に素直になるのは、涙を流すのとは違う。
寂しさで涙を流すのは一人の時で充分だ。
「忝ない。某の信念でござる。
しかし、我々が寂しくならぬよう皆が気遣ってくださるのが嬉しい。
この船の男達は暖かいでござる。勿論こちら側の者たちもだ。」
そういうとリーザは嬉しそうに笑った。
「まだ幼い某は良き者たちに恵まれて勿体無うござる。大人になって皆の役に立ちたい。」
「ワノ国の士族の子供は意識が高いのですね。」
「それは知らぬことである。」
リーザが去って船縁で一人、海を眺めた。
夜の静かな海は月に照らされ揺れていた。
母上が優しく見守り笑っている顔がそこに有るような気がして月に手を伸ばした。
「母上、きっと父上を越える立派な侍になり帰って参ります。」
言い終わると頬を優しく撫でるように風が吹いた。
部屋に戻りスヤスヤ眠る二人の妹の寝顔を見た。
明日は何事もなく起きてくれるだろうか
そんなことを考えながら眠りについた。
うわーーーーーーーーーん!!!
翌朝、予想通り雪が大号泣。
ユリはしくしく泣いて親がいないことを、会えないことをまだ受け入れられずにいた。
ナースの部屋ではてんやわんや。
あまりにも泣き止まない雪は話し合いの結果、なぜかマルコの不死鳥で空の散歩に連れ出したことで収まったという。