第4章 気持ち
思ったより早く済んでしまった開店準備に、あとは開店を待つだけとなった。
少し休みませんか?と、カウンター内にあるイスに促される。休む程のことはしていないんだけれど。とりあえず指示通り椅子に腰掛けた。
「事務所の方、1人にさせてしまってすみませんでした。別件が忙しくて・・・色々大丈夫でしたか?」
「はい、特に問題はないです」
任された仕事は滞りなく済ませている。
少しでも彼の力になれていれば良いのだが。少なくとも彼の足を引っ張る存在にはなりたくなかった。
「ひなたさんに事務所に来てもらって本当に助かってます。これからもよろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ・・・!」
改めて言われると恥ずかしい。安室さんに向けていた顔が自然と下に向く。
きっとまた酷い顔になってるんだろうな。
落ち着きの知らない心臓がまた早まってくる。
息苦しい。伝えることのできないこの感情を、抑えるだけで必死で。
どうして安室さんだったんだろう。
同じような疑問ばかり毎回出てきてしまう。
答えが見つかったところでどうしようもないのに。
そんな自問自答を繰り返していると、まだ開店前なのに聞きなれたドアベルの音。安室さんと共にポアロの扉に視線を向けた。
「ごめんなさい、開店前だけど入ってもいい?」
コナンくんだった。彼とはあれから何度かポアロの前で挨拶をすることはあった。
その時にここで働いていることも伝えている。
「かまわないよ、今日はどうしたのかな?」
安室さんが聞きながら立ち上がって料理の準備を始めた。
返事を聞いたコナンくんは「ありがとー」と言いながら小走りでカウンター席に座った。
「蘭姉ちゃんは空手の合宿、小五郎のおじさんは浮気調査でいなくて」
そういえば彼がどうして毛利探偵事務所に住んでいるのか知らなかった。確か苗字は江戸川だったはず。最初は蘭さんの弟だと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
でも今更聞くに聞けなくて。
「じゃあこの後は博士の家でゲームかな?」
博士?あまり聞きなれない言葉を放つ安室さんに視線を向ける。
「うん、まあそんなとこ」
それに対して言葉を濁すコナンくん。
なんだろう、和やかな雰囲気なハズなのに。どこか空気がピリついていて。
得体の知れない不安が押し寄せてきた。