第4章 気持ち
冷ましている間に自分の身支度を済ませ、粗熱のとれたおかずが詰まったお弁当箱を包む。
口に合うだろうか・・・味付けは失敗していないだろうか・・・
不安ばかり出てきたが意を決して、包んだ弁当箱を仕舞いポアロへ向かった。
時間に追われている訳ではなかったが、なんとなく小走りになる足。
早く安室さんに会いたい。
会って話したい。
会えると思うだけで口元が緩んだ。
足早だったこともあり、あっという間にポアロについて。こっそり窓から店内を覗き込む。
まだ真っ暗で誰もいないようだった。
「早かったかな・・・」
少し残念に思った。
でも今日は確実に安室さんに会えるのだから。
話すことができるのだから。
そう浮き足立っていると、顔を近付けていた窓の向こう側から、ひょいっと突然目の前に現れるにっこりと笑った顔。
唐突過ぎて跳ねるように驚いた。
「ひゃあっ!?」
驚き過ぎて変な声が出た。
よく見ると突然現れた顔は安室さんで。
「すみません、そんなに驚くと思わなくて・・・」
ポアロの扉を開きながら申し訳なさそうに謝った。先程の変な声を聞かれたと思うと恥ずかしさが込み上げる。
「わ、私こそ、変な声出してすみませんでした・・・!」
きっと真っ赤であろう顔も見られたくなくて、深く頭を下げた。
ああ、なにやってるんだろう。
「驚いたひなたさん、可愛かったですよ」
バッと勢いよく顔を上げる。いつの間にか目の前に立っている安室さん。
いや、そんなことより。
今、なんて・・・?
「・・・な、なまえ・・・・・・」
「あ、ダメでした・・・?」
困ったように頬を掻きながら笑う安室さん。
「そんな・・・!寧ろ嬉しいです・・・っ!」
「それなら良かったです」
にっこり笑ってくれる安室さん。
名前で・・・呼んでくれた。
・・・お世辞だろうけど可愛いとも。
嬉しくてまた鼓動が早くなる。
単純だとも思ったが、それでもいい。
「じゃあ、ひなたさん。開店準備、始めましょうか」
「は、はい・・・!」
落ち着かない心臓のままポアロに入って、スタッフルームに駆け込んだ。お弁当と手荷物をロッカーにしまい、ホールへ戻る。
そのまま作業を始めたが、安室さんが事前に準備をしていたこともあり、殆ど私は作業することなく開店準備は終わってしまった。