第2章 葬式
しかし、どうにもならない。確かにそうだ。燐のサタンの炎は、もはや降魔剣では完全には抑えきれなくなってしまった。剣が折れれば燐はその肉体に宿った青い炎にたちまちにして意識を呑まれ、人も悪魔も関係なく灼き殺してしまうだろう。フェレス卿の気まぐれがなければ、今すぐこの場で殺されていてもおかしくはなかった。まあ、今生き延びられたとしてもその場しのぎでしかないわけだが。
本当に馬鹿だ。サタンの息子が祓魔師だなんて。笑い話にもならない。そんなことをして生き長らえて何になる? 炎を扱えるようになったところで、父が帰ってくるわけでもないのに。
雪男のこわばった表情を見て、昴はそのほっそりとした手を雪男の肩の上に置いた。骨の髄まで凍っているかのような冷たい冷たい手。幼い頃、高熱を出すたびに昴が添い寝してくれたことを思い出す。体温の低い彼女が傍にいると、熱にうなされる身体がひんやりとして気持ちよく、とても楽になったものだ。
「大丈夫だよ雪男。燐も、雪男も、殺させたりなんかしない。絶対に」
そしてその冷たさと裏腹に、深い森の色の目は強い決意をはらんで燃えていた。瞳孔の奥の方からは微かに、稲穂のような金と緑の光がちろちろと揺らめいている。昴はいつも、何か覚悟を決めるときにこういう目をするのだ。
殺させたりなんかしない。彼女も雪男と同じように、燐を守る覚悟があるのだ。誰を敵に回しても、どんな犠牲を払っても、きっと彼女はそばにいてくれる。そうやって疑いもなく信じられることが、雪男は何より嬉しかった。
「祓魔師の資格も取り直すし、そうしたら、また私が二人を守る。だから安心して。ね?」
「……はい」
母親のような優しい声で言う昴に、雪男は神妙にうなずいた。