第2章 葬式
「大声を出して、すみません……でも、違います。昴さんのせいじゃありません。あれは事故だったんです。だから……」
だから、何だろう。次にかけるべき言葉が思いつかなくて、雪男は口を噤んだ。今は昴の悪癖を問いつめるような場面ではないし、実際問いつめてみたところで、ただ黙って困ったように微笑まれるのがオチだ。だから。
滅多に聞かない雪男の荒れた声に、昴はしばらくその隻眼を見開いて驚いていたが、すぐに表情を笑んだ形に戻した。雪男が見たくなかった、困ったような、申し訳なさそうな色が貼り付いた笑顔だった。
「……ありがとう。雪男は優しいね」
「何言ってるんですか。優しくなんかありません。何も……」
雪男は一度深く俯き、意識して息を強く吐き出した。まだ春になったばかりの冷たい外気に、こぼれ出た息はひどく熱く感じられた。
「……問題は兄です。炎を抑えられなくなってしまった」
「そうだね。あのままじゃあ正直どうにもなんないだろうなぁ。日本支部で匿っていられるのも時間の問題、ちょっとでもヘマをすればバレて殺される。今のところはあのいけ好かないクソ悪魔に頼るしかないね」
昴は傘の柄を握ったまま器用に腕組みをして言った。その顔には隠しきれずにじみ出る嫌悪の表情。――と言うのも、彼女は聖十字騎士團の日本支部長、メフィスト・フェレス卿をやけに嫌っている。理由は雪男も知らないが、あの常に人を馬鹿にする食えない悪魔を嫌う気持ちはよく理解できる。