第2章 葬式
「はぁい、燐」
「……昴」
昴が片手を上げて近寄ると、燐は俯いていた顔を少しだけ上げて、すぐにまた元のように俯いた。
教会の裏口に設けられた小さな階段、屋根が少し張り出してぎりぎり雨をしのげる場所に、燐は座っていた。そういえば喧嘩や不登校のことで藤本神父に叱られると、頭を冷やすためによくこうやって座り込んでいたっけ。思い出し笑いをしながら、昴は燐の隣のわずかなスペースに滑り込むようにして座った。
「帰ってきてたのか」
「そりゃこんな大事があればね。ただいま」
言いながら横目で燐の表情を伺ってみたが、前髪に隠れてよく分からない。触れ合った肩は湿っていて、少し前までずっと雨に打たれていたことが伺い知れた。
「雪男とちょっと話してきたよ。そろそろ行こうって」
やはり返事はない。昴は息をつくと、視線を鈍色の空へと差し向け思案した。他に何か話しておくべきことはないだろうか。
(雪男はまだ自分が祓魔師だってこと燐に言ってないみたいだし、私がしゃべるわけにはいかないな)
雪男は若干7歳という幼さで祓魔師の世界に身を投じながら、燐に祓魔師関連のことは一切話さなかった。そうすることで、何も知らずに脳天気に生きている兄と、幼少から祓魔の道をひた走る自分との区別を濃くして、プライドを保っているようだった。まったく見上げた負けず嫌いだ。
まあつまり、話すことが何もない。昴は暇そうに足をプラプラさせ始めた。