第2章 葬式
「わざわざ寮から来てくださったんですね……すみません、忙しい時期なのに」
「何言ってんの。こんな大事な時に……もしかして、私は世話になった恩人の葬式にも来ないような冷血漢に見える?」
「ち、違います! そんなつもりで言ったんじゃ……」
「やだな。冗談だよ、冗談」
慌てふためく雪男を見て、女はくすり、とおかしそうに笑みをこぼした。古苔のような深い緑色をした瞳孔が、しっとりと濡れた光を放つ。
彼女の名は朝比奈昴。奥村兄弟と共に、教会で藤本神父の保護を受けていた孤児で、兄弟にとっては姉も同然の存在だ。歳こそ彼らと同じだが、その大人びた仕草や性格のせいか、教会内では「昴は姉」という認識が定着していたし、昴自身もまた奥村兄弟のことを実の弟のように慈しみ可愛がっていた。
彼女が中学2年生の時、聖十字学園の附属中学校に編入し寮に入るまでは、何をするにも3人一緒だった。寮に入るため教会を離れた後も、2週間に1回は養父である藤本神父に顔を見せに教会に戻っていたのだが――。
次の帰省日を待たずして、藤本神父は死んだ。
しかも、燐をあの、虚無界を統べる凶王・魔神(サタン)の魔の手から守って。
「――あの人らしいね」
「え?」
横手にある真新しい墓石を見下ろしながら、昴は言った。