第2章 葬式
どんよりとした鈍色の雲から細かな雨の降りしきる中、故「聖騎士」藤本獅郎の葬儀は静かに執り行われた。
時間はすでに夕暮れ時。ひしめくように葬儀場を埋め尽くしていた参列者もそのほとんどが姿を消し、真新しい墓石に寄り添うように立っているのは最早、彼一人だけになっていた。
奥村雪男。獅郎が神父を務めていた教会で育った、彼の養子だ。
憂いを含んだ青い瞳で、彼は雨に濡れる父の墓を見下ろしている。長年自分を、息子としても祓魔師としても立派に育て上げてくれた父親が、兄を守って命を絶った――その胸に去来する想いがどんなものであるか、それを知ることは誰にもできない。
と、小雨の奏でるさらさらという音に、ばしゃりと大きな水音が混じった。
「雪男」
低く、胸に直接染み渡るような不思議な響きを持った女の声に、俯いていた雪男は少し顔を上げて振り返った。青い瞳がほんの少しだけ、見開かれる。
「昴さん」
雪男の視線の先には、真っ黒な傘を頭上に差した女がひとり、立っていた。
年の頃は雪男と同じくらいだがすらりと背が高く、長身の雪男と比べてもそこまで身長差はない。体躯は女性にしてはやや細身だが、肌は暗く曇った空の下でも白く輝くようだった。刃のような鋭く美しい顔立ちをしているが、顔の左半分は何故か黒いベリーショートの髪の下に隠れてしまって、顔全体を視認することはかなわない。
雪男が「昴」と呼んだその女は、気づいてもらえたと分かると愛おしそうに切れ長の目を細めて、静かに微笑んだ。