第21章 ロマンスに憧れて
コンコン、と軽くノックをすればすぐに扉が開いた。
「……来たか」
少しだけお酒の匂いを纏わせた先生が私を招き入れた。自宅以上に何も無い、部屋。ここは、先生の匂いがまだ薄い。
「これ、途中でミッドナイト先生にお会いして」
廊下で会った経緯を話して「本当か聞かれたので肯定したらお祝いにってもらっちゃいました」そう言って手渡せば微妙な顔でボトルを見下ろす先生。お祝いって、ねえ。
「……肯定しない方が良かったですかね?」
「いや、その方が助かる」
受け取ったボトルをローテーブルに置いて、こちらを振り向く。
「後で飲むか」
「え?」
「俺が覚えてるうちに話しないと明日起きたら忘れてました、じゃ意味無いだろ」
それは、つまり。
私の前で、酔う気だということ。今まで避けてきたのに、どうして。そう思うと同時に期待に揺れるのは愚かだろうか。
「とりあえず、明日出勤したら他の先生達に報告してメディアには双方から文書を出そう」
「はい」
「もしもマスコミが門前で張ってたら2人で出るぞ」
「それって……」
「交際宣言、だな」
一拍置いて「嘘だけどな」と続く言葉が心にグサリと刺さり込む。わかってるのに、こんなにも痛いなんて。
「基本は俺が答えるから水分は適当に相槌打って、話振られたら合わせてくれればいい」
「……わかりました」
「校長には俺から話通しておくよ」
「あー、完璧に否定しましたからね……」
そういえばそうだったなあ、と昼間のことを思い返して。