第21章 ロマンスに憧れて
そしてふと考える。私は恋人などいないし寧ろ相澤先生のことが好きなのだからいいとして、相澤先生は。今まで気が付かなかった、気付かないようにしていたこと。
先生はきっと、恋人がいるならば幾ら酔っていたからと私と関係を持つとは思えないけれど。ほら、万が一バレでもしたらそれこそ合理的じゃない。先生はきっとそんなヘマは打たないと思うけれど。
「……先生は、」
するべき話は終わったとワインを注ぐべくグラスを手にした先生に声を掛ければ、不思議そうにこちらを見る。
「先生は、私なんかと噂になって……いいんですか」
だって、私の気持ちを吐き出させてすらくれないのに。好意を寄せられていると分かっている、そんな相手と。幾ら、幾らそれが全てを誤魔化す為の嘘だとしても。どこまで残酷に私を。
「……じゃなかったらそんな提案乗るかよ」
呆れたように溜め息をついて、ワインの入ったグラスを私に寄越した。
それは、どういう意味なのだろう。まさか先生も私を、なんて都合良く受け取れるほど子供でも世間知らずでもない。
それでも私にはわかっていることが一つだけある。
苦い想いと共に飲むこの赤紫の液体が揺れるグラスがからになる頃、私はこの男に抱かれるのだ。
結局、なにもわからないまま。