第20章 手繰り寄せる贋物の純愛
「しかしまあいつの間に写真なんて撮られてたんですかねぇ……」
「知らん」
「ですよねー……」
知ってるけどな、それを口にしたらお前はどんな反応をするだろうか。軽蔑、するだろうか。
「そんな、記事にされるようなことなんて何も無いのに」
「……そう、だな」
何も無い、か。俺があの夜、マイクにもう少し飲まされていたら。そうすればきっと何も覚えていなくてお前のその言葉を鵜呑みにしただろうな。ただ後輩を送っていっただけで、間違いなど無かったと。事実、あの発言を聞くまではそう思っていたのだから。我ながら目出度い頭してやがる。
「ところで……」
「なんだ?」
「髭、剃ったんですね」
「あー、……」
頭をガシガシと掻いていれば首を傾げて俺を見る水分。言えばいいだけだ、記事を本当に、ただそれだけ。お前のためならメディアに出ることだって厭わない。そう、ただ言えばいいだけ。
「さっきの。いっそのこと本当にって話」
「え?あ、はい……?」
「その案、乗る。とりあえず公表するなら髭面のままじゃまずいと思ってな」
事態を収めるにはそれが手っ取り早い、そう言えば眉を顰めた水分の手の中でグシャ、と音を立てて缶が潰れた。その圧によって溢れた中身で濡れた手も足も気にしていない様子で俺を見るその瞳は、明らかに怒りに染まっていた。なんでだ、どうして、水分はまだ俺を。