第20章 手繰り寄せる贋物の純愛
「あー、疲れたあー……」
どうにかこうにかマスコミの目を掻い潜って最低限の荷物は運び込んだ。必要以上に気を張って疲れた体とともに共用部のソファに沈むと声をかけられる。
「水分」
「……相澤先生」
オフスタイルの相澤先生が現れて隣に腰掛ける。あー、その纏められた髪がすごく性癖なんで寄らないでください。あー、もう触りたい。その曝け出された首筋に。って、あれ?髭剃ってる。どうしようすごいかっこいい。
先程の気まずさは先生のその色気で少し飛んだ。ああ、やっぱり私はこの人が、好きだなあなんて。
そんなことを考えている私の前にコトリと置かれたのは缶ビール。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様、です」
邪な考えをどうにか振り切って、置かれたビールを手に取る。
カシュッと音を立てて開けた缶を私の持つ缶にぶつけて、乾杯なんて言い合って。なんだか懐かしく感じる、先生と初めて繋がった夜と同じ光景に少しの笑いと悲しさが込み上げる。
「……なんだよ」
「先生は覚えていないと思うんですけどね」
口を離したビールの缶を両手で包んで下を向く。そう、覚えていないこと。私だけが知っていること。
「先生の家で飲み直した時も、こうやって並んで乾杯って言い合ったなあと思いまして」
「……そうか」
「まさか、……まさか覚えていないなんて思いませんでしたけどね」
熱に浮かされただけの、愛も何も存在しない時間でも私にとっては夢のような。