第20章 手繰り寄せる贋物の純愛
違う。俺が都合良く解釈しただけだ。まだそうであって欲しいと。
水分はきっと、俺の気持ちが自分に向いていると気が付いていて。ああ、そうか、意趣返しか。俺を弄んで憂さ晴らししてるのか、あの時の俺に。
「……それ、どういう意図で言ってるんですか」
俯いて、握り潰した缶を見つめながら震える声で聞かれるそれに、どう答えるべきなのか。決意を固めて来たのはいいが、こんな、望みも何も無い状態で。
きっと、あの時の水分も。
意を決して告げようとした水分に俺はこんな思いをさせていたのか。水分を思って言ったはずの言葉が水分を苦しめていたのか。明らかな、拒絶を受けて。
「合理的虚偽だ」
違うんだ水分、そうじゃない。けれど拒絶されて尚、本気でそうなりたいなんて言うのは怖かった。もし告げたとして、水分から返される言葉を聞くのが怖くて堪らなかった。
「そうですよねー、まあ先生がそれでいいなら私は構いませんよ」
何を考えているのかわからない、そんな声音で答えた水分が立ち上がって。
「あー、もう、びっくりして潰しちゃった……」
握り潰した缶を手に「ビシャビシャだあ、部屋に戻りますね」そう言って去ろうとする水分の腕を反射的に掴む。
「なんですか」
冷ややかな声に萎縮する。けれど、もう後には戻れないから。
「いや……、矛盾が生じないように打ち合わせた方がよくないか」
「あー、そうですね……じゃあ少し待っててください、着替えたらすぐ来ますから」
「……ここだと誰が来るかわからん。部屋で待ってる」
一瞬、目を離していたらわからなかっただろうほんの一瞬目を見張った水分がすぐに表情を戻して。
「わかり、ました」
それだけ返して踵を返した水分の小さくなっていく背中を見送って自室へと戻る。
「はー……、何やってんだろうな俺は」
一度は自分から突き放したくせに、今はそれを手に入れようともがいて。なんて滑稽だろうか。