第19章 憂き世炎上
「今ならまだそこまでマスコミは張ってないだろうからね、今のうちに当座の物を運ぶといいさ」
「……わかりました」
「すみません、ご迷惑をおかけします」
立ち上がり頭を下げる先生と同じように深く頭を下げる。ああ、頭を上げられない。
「うん、まあいいよ、すぐに落ち着くだろうさ」
纏う空気を緩めた校長が口を開いて。
「それで、実際のところどうなの?」
あまりにさらっと聞くものだから大口開けて間抜けな顔を晒してしまった。
「水分と私は噂されるような関係ではありません」
キッパリとそう言い切った先生に胸が痛む。ねえ、先生。熱愛とかそういうんじゃないけど、世間様には言えないようなコト、私としたんだよ。なんて、言えないけれど。
「相澤先生は尊敬する先輩であると同時に私の師です。可愛がって頂いてるとは思いますがここに書かれているような関係ではありません」
スラスラと口から出る言葉に更に痛む心を無視して。言った言葉に偽りは無い。ただ、先生に抱く憧憬も尊敬も、全ては先生を好きだという一点に帰結するだけ。記事に書かれた関係ではなくて、誰にも言えないような関係なだけ。その関係すら今や消えかけている。ただ、それだけのこと。
「そうかい、うん、わかったよ」
「それじゃあ荷物をまとめておいで」そう言って退室を勧められる。あれ、意外と今日は話が短かった。そりゃそうか、マスコミが騒ぎ立てる前に準備しなくちゃいけないものね、きっと校長も言いたいことを飲み込んでいるんだろう。
とりあえず数着の着替えや身の回りの細々したものを持ってこよう。足りなければネットで買えばいい。
隣を歩く先生を伺い見れば視線に気付いたのかこちらを向いて。少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
「悪いな」
「?なにがですか」
「俺なんかと噂になっちまって」
違うよ先生、この噂が本当だったらよかったの。私は先生と噂されるような関係になりたい。この恋心の落としどころが分からなくなって、先生と体を重ねることに必死になって、この状況を作り出したのは私。
謝るのは、私の方だ。