第11章 嘘つきアーモンド
認めたくはないのだが、俺は水分のことが好きなんだと思う。まともに恋愛などしてこなかった。溜まった欲を吐き出せればそれだけでよかった。愛だの恋だの煩わしい。時間は有限、そんなくだらないことに割く時間など無い。
記憶に残る数年前の卒業式の日、水分が告げようとした気持ちは以前からわかっていた。普段から感じるその気持ちに応えるつもりなど元よりなくて、その先を紡ごうとする水分の言葉を遮って言った言葉は嘘ではない。
自分を慕う健気な生徒。正直、今まで見てきたどの生徒よりも可愛い教え子だと思った。容姿についてでは無い──もちろんそこも可愛いとは思うが─その俺を慕う姿勢が可愛いと。だが、それだけだ。俺は水分に対してそれ以上の特別な感情は持ち合わせていなかったし、先行き長い明るい未来が待っている水分に期待を持たせまいと告げた。
だがそれからの俺はどうだったろう。ヒーローとして活躍する元教え子が活躍する度、それ以上の胸の高鳴りを覚えて。画面に映る水分を無意識に目で追う。
そんな自分にようやく気づいた頃、生徒としてではなく教師として、共に働く同僚として雄英へ来た水分。同じ立場に立ったんだ、教え子に手を出すような禁忌を犯すような、そんな関係ではないことに心做し浮かれる自分。けれどやはり元教え子に抱く気持ちに抵抗を感じる自分が相反していた。
飯に誘えば動揺するその挙動に、もしかしたらまだ俺のことを想っていてくれてるのかもしれないと淡い期待を抱いて。がちがちに緊張する水分を横目に、俺も緊張でおかしくなりそうだった。
どうして水分が家にいたのかなんて、覚えていなかった。ただリビングに広がる残骸に、ここで飲み直したらしいことだけは理解した。
それからの水分との関係は特に変わりなく、酔いに任せて余計なことを口走ったり、よからぬ行動は取っていなかったらしい自分を褒めた。