第10章 欺瞞にまみれた自己愛を
職場体験に出た生徒達の報告をまとめあげる作業を任された。今日のヒーロー基礎学の授業は相澤先生とオールマイトさんが受け持ちなので私はひたすら山のような報告書とパソコンを前に格闘していた。
個性はもとより性格も個性的な生徒達の報告書は中々に難解でまず読み解くのに苦戦を強いられている。
「なんじゃこりゃ……」
そう独りごちて頭を抱える。先生ってすごい。いや、私もその先生になったんだけど。
とりあえずこの子達には卒業するまでにまともな報告書の作り方をレクチャーしなければなるまいな、と考えながら気合を入れるために耳に掛けてもはらりと何度も落ちてくる髪を纏め上げる。
偏差値が80に近いほどのこの学校でこんな出来なら他の学校はどうなってるんだ。寧ろ強すぎる個性が邪魔をして個性的すぎる人格が出来上がっているのか。三者三様、十人十色な報告書にまずはざっと目を通しながらそんなことを思っていた時。
「あれ?水分さん」
「13号先生?どうしました?」
「ここ、虫に喰われました?」
そう言って13号先生が指差したのは首筋、項の辺り。
触ってみても膨らみも無く、痒みもない。不思議に思って首を傾げていると通りかかったミッドナイト先生が些か興奮した面持ちで声を上げた。
「あら?あらあらあらあら?13号、それは虫喰いじゃなくて……キスマーク、よ」
語尾にハートでも付かん勢いで言われたその言葉に13号先生が慌てふためく。もちろん私もである。
「えっ!?嘘、え、えっ見え、見えない……!」
どう足掻いたって自分では見えない位置にあるミッドナイト先生曰くキスマークだというそれ。
昨夜を思い返せば思い当たる節があって一気に顔に熱が集中する。