第1章 初恋は実らない
“すまん、もう少しかかりそうだ。
20時、駅前な。”
ちょうど帰宅したその時、ポケットの中でスマホが震えた。わかりました、と返信してトーク画面を見てにやける私は相当気持ち悪いと思う。
けれど仕方ないことだよね、なんて。だって、相澤先生が連絡先に登録されている、それだけでも頬がにやつくのに、先生から届いたメッセージ──ただの業務連絡のようなものだが─それだけでも心が躍ってしまうものなのだ。
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「悪い、待たせたか」
「いえ、つい先程着いたところです」
「そうか、急で悪いな。どこか希望はあるか?」
そう問われ「どこでも構いません」と口から出してからふと疑問に思う。もしこれが歓迎会だとしたら私に希望の場所なぞ聞くだろうか?
いや、私がどこでもいいと言うことを見越しているだけか。うん。そうだな。さすがに新人の私がそんな生意気言えるわけがないんだし。
「水分、もう酒は飲めるのか?」
「え、いくつだと思ってるんですか?もう成人してますよ……ちなみにお酒は大好きです」
そう答えれば少しだけ瞠目した様子の先生が「そうか、そりゃそうだよな」なんて呟いて、「……はい」と答えるしかなかった。
卒業してもう5年だ。先生に告げようとして5年。この5年、いや、学生時代も含めば8年。先生への思いは無くなるどころか膨らむ一方だった。
そんなこと、言えるはずもないけれど。
無言のまま、二人で歩いた先は少し洒落たバー。
小汚い──などと想い人に思うのは失礼だが─相澤先生がこんなところに来るとは思わない上に、いよいよ歓迎会とも思えなくなってきたところである。
「……よくマイクと来るんだ」
顔に出ていたのか、先生が口を開いた。
「少し、話をしておきたいと思ってな。ちなみに歓迎会はマイクが来週するって言ってたぞ」
先生と、ふ、ふたりきり……!薄々わかってはいたけど、まじか。無理だ。無理無理。帰りたい。