第1章 初恋は実らない
「はぁーーーー、私なんかが先生やっていいんですかねぇーーーー」
二人きりで飲むなんて無理だ、と思っていたはずなのに絶賛酔っ払い中で。
「いいんじゃないのか?#苗字#だって教師になりたかったんだろ?」
「いや、まぁなりたかったですけどー」
でも、動機が不純だし、とは言わないでおいた。先生に近付きたいから、なんて。
「俺はやる気のないやつは見ないぞ。やる気ないんだったら辞めろ」
「!辞めません!せっかく!ここまで!きたのに!」
勢い余ってカウンターに空のグラスを叩きつける形になってしまう。そう、せっかくここまできたんだ。せめて形だけでも隣に並べるところまで。
「おかわりくださーーーーい、強いやつーーー」
「いい加減にしろ、……すみません、お冷ください」
店員にお冷を頼んだ先生に「えーーー、まだ飲みますーーーまだ飲めますーーーー」なんて言えば「うるせえ酔っ払い、呂律回ってねえぞ」と返されて。それでも駄々をこねる子供のように「嫌ですーーーー、飲みたいーーーー」なんてのたまわる。先生と二人きりだなんて緊張でおかしくなりそうで飲んでいないとまともに顔も見られない。
「……飲まないと、やってられません」
そう、ぽろりとこぼした本音を拾ったらしい先生が、とりあえずここは出るぞ、って。
「まだ……飲めるもん」
「お前騒がしすぎ、店に迷惑。いいから黙って支度しろ」
言葉は乱暴なのに、エスコートする手つきが優しくて涙がこぼれそうになった。
きっと、何も思っていないから。私がなんとも思ってないと思っているから。このまま、このまま、このままがいい。
いつの間にか会計を終えた先生に促されて二人でタクシーに乗り込む。
「……なぁ、飲み直すなら、俺の家くるか」
理解するまでに時間がかかって、返事に言葉も出なくて、ようやく頷いた頃には先生の家に着いていて。
私だって初心な女子でもあるまいし、この誘いに乗ればどうなるかなんて、わかっていたんだ。それでも首を縦に振ったのは、行き場のない恋心の行き先を探していたのだ。これで、これでようやく、報われない恋が終わる音が聞こえたんだ。
───最後まで報われることの無いまま。