第5章 デイジーは笑わない
駄菓子に囲まれた空間でお酒を嗜む。子供と大人が混在したような空間が楽しくてお酒が進んだ。駄菓子をそのままつまみとしても食べられるし、駄菓子を使ったちょっとした料理も食べられる。なんて素敵なお店だろうか。
「駄菓子の大人買い、駄菓子料理、そしてお酒……最高っ!」
ビール片手にベビースターをつまみながらそう口にすれば目の前の先生が笑う気配がして。
「水分、お前もう酔ってるな」
「そういう先生は全然変わりませんね~ぇ。酔っても変わらないタイプですかぁ~?」
「……酔っ払った記憶はないな」
先生、それは酔っ払って記憶を無くしてるから酔った記憶が無いだけだと思いま~す。そう口から出そうになるのをビールと一緒に飲み込んで。酔いによってふわふわ浮いていた気持ちが少しだけ沈む。
「なんだよその目は」
「いえ、この間のこと覚えてないのになぁ、と思って」
反射的にそう答えてしまって少しだけ後悔する。
「、悪かった」
「……なにがですか?」
何に対しての悪かった、なんだろう。覚えていないこと、以外にはないのだけれど。先生は何も覚えていないのだから。
何度も謝られると余計に惨めになるなあ、まるで私があの夜に縋っているみたいで。
「先生は、どこまで覚えているんですか?」
「あー、店を出たとこまでは覚えてる」
「うわっ、じゃあ私が酔っ払ってクダ巻いてたのは覚えてるんですね」
それこそ忘れて欲しかったんですけど忘れてくれませんかね、なんて笑ってみせる。
忘れないよ、なんて呟いて先生はビールを飲み干した。